■糖尿病ってどんな病気?
糖尿病ってどんな病気でしょう?と尋ねられたらどう答えられますか?
血糖値が高い病気、尿に糖が出てくるなどがまずよく聞かれるお答えです。病院で非常に進行した糖尿病です、治療が必要ですと言われても、全然体がしんどくないし、そんな薬なんか飲まないといけないの?と言われる患者さんも多くおられます。確かに、糖尿病はよっぽど血糖が高くならない限り、代表的な症状である多飲、多尿、口渇などの症状は出現しませんし、なんの自覚症状もないことが多いのが特徴と言えるかもしれません。そこが、サイレント・キラー(何の症状もなく、気づいた時には重篤な疾患を引き起こしている)と言われる所以かもしれません。
これまでに診させて頂いた患者さんでも、たまたま久しぶりに受けた健診で、すでに糖尿病による腎不全が進んでおり、すぐに透析をしなといけない状況であったり、何か目が見にくくなってきたなと思って眼科に行ったら、すでに糖尿病による目の障害で失明間際だったりなど、糖尿病の末期症状で発見される患者さんも少なくありません。
ここでは、肥満、運動不足からくる2型糖尿病についてお話させて頂きたいと思います。
■どれだけの糖尿病患者さんがいるのでしょう。
現在、日本でどれくらいの糖尿病患者ならびに境界型糖尿病(正常と糖尿病の中間、いわゆる糖尿病になりかけの初期の状態)がいるでしょう。
2007年の調査で2210万人もいるといわれ、2006年からの調査で1年間に340万人もの糖尿病が疑われる患者さんが増えています。この人数は、あまりに大きすぎてピンとこないかもしれませんが、40歳以上の人だけで考えると、何と3人に1人が糖尿病もしくは境界型糖尿病であると言われています。
3人に1人と言われたら、自分がそうでないと言い切れますか?おそらくこれを読んで頂いている方のなかには、3人に1人と言われても自分は大丈夫と思われるかもしれません。しかし、先ほどの2210万人の患者さんのなかで何らかの形で病院に通院している人は、たったの56%で、残りの44%の患者さんは、自分は大丈夫と思って通院をされていないのが現状です。さらに、健診も受けていない人の中にどれだけの糖尿病患者さんがおられるかと考えると、実際はさらに患者数は多く、通院していない患者さんの割合ももっと増えるのではないでしょうか?
■なぜ糖尿病になるのでしょう?
上でも述べましたように糖尿病患者さんの数は、年々増加しています。
それはなぜでしょう?飽食の時代でみんな食べる量が増えたのでしょうか?
1950年代からの調査では、実は摂取カロリー量は増えていません。増えたのは、脂肪の割合です。食事の欧米化によって脂肪の摂取量が増えたことが背景にあると思われます。間食が増えたのも一つの原因と思われます。
もう一つの理由は、運動量の減少です。車の保有台数の増加に伴って、運動量が減少したことも重要な糖尿病増加の原因と思われます。
肥満からくる2型糖尿病には大きな特徴があります。インスリンというホルモンが、膵臓から分泌されて、血糖を低下させます。膵臓の障害で引き起こされる1型糖尿病では、このインスリンが低下することで血糖が上昇し、糖尿病となります。
しかし、2型糖尿病の初期では反対のことがおこります。つまり、インスリン量は普通の人と比べて増えるのです。それでどうして糖尿病になるの?と思われることでしょう。
この状況としては、インスリンはたくさんあるのに、全身、特に内臓脂肪が邪魔をして、インスリンが効きにくい体になっているのです。これをインスリン抵抗性と言います。インスリンが効きにくいので、血糖を下げれない、そこで膵臓がもっとがんばってインスリンをたくさん出します。初期の段階では、これで何とか血糖は上昇せずに済みます。しかし、この肥満の状態を続けていると、だんだんインスリン抵抗性がさらに増して、もうこれ以上インスリンを増やせないという状態になった段階で血糖値が上昇してきます。
これが糖尿病の発症です。さらに悪いことにこの状態を続けていくと、膵臓が疲弊してインスリンを出せなくなってきます。そうしますと、インスリン抵抗性に加えて、インスリン不足になるために血糖が著明に上昇してくることになります。この段階が進んでいけば、インスリン注射を必要とするような進行した糖尿病となってしまいます。
こういった悪循環をどこかで断ち切ることが糖尿病予防・治療に重要だと思われます。
■糖尿病の検査について
(1)血糖;血糖は食事により上昇しますので、測定するタイミングにより大きく異なります。通常10時間以上絶食した朝食前の血糖値を空腹時血糖値といい、糖尿病診断の目安にします。空腹時血糖の正常値は110mg/dl未満で、2回以上126mg/dl以上であると糖尿病と診断することができます。また、この中間の血糖値であれば、境界型糖尿病と診断されます。
また、食後2時間後の血糖値も診断の参考となり、140mg/dl未満が正常、2回以上200mg/dl以上であると糖尿病と診断されます。同じくこの中間では、境界型糖尿病と診断されます。
(2)尿糖;簡便には検尿テープで、尿に糖が出ているかを調べます。しかし、尿糖は通常血糖値が160-180mg/dl以上にならないと陽性にならないため、空腹時に尿を検査して陰性だと言っても糖尿病でないとは全く言えません。
もし、市販の検尿テープで調べられるときは、食後1-2時間の尿で調べてみて下さい。もし、空腹時に尿糖陽性となれば、糖尿病(それもコントロール不良)である可能性が高く、食後のみで陽性であれば食後に血糖が高くなる(食後高血糖)タイプの糖尿病か境界型糖尿病である可能性があります。その場合は、近くの医院で精査を受けるか、健診を利用して下さい。境界型糖尿病と診断され、薬なしでしばらくがんばって下さいと言われた時には、食後に市販の検尿テープで尿糖をみてみて、陽性だったのが陰性になるのを自己確認するのもよいと思います。食事を食べ過ぎたときには、尿糖が陽性になるので、食事量のめやすにもなりますし、食事・運動療法を続けていく上でも励みになると思います。
(3)HbA1c; 糖尿病のコントロールの目安として、最も頻用されるのがHbA1cです。これは、1-2ヶ月間の血糖値の平均の目安として用いられます。正常値は6.2%未満ですが、5.6%以上になると境界型糖尿病である可能性が高くなるために、前述の特定健診では5.6%が判定基準となっています。さらにこのHbA1cは、治療中の糖尿病患者さんのコントロールの目安となり、HbA1c 6.5%以上が糖尿病という診断になっています。通常、経口糖尿病治療薬やインスリン治療を受けておられる場合には、合併症予防のためにHbA1c7.0%以下を目指します。食事・運動療法のみの場合、投薬が少量のみの場合は6.0%未満を目指します。
■糖尿病の治療
糖尿病の治療についてですが、基本は薬やインスリンではありません。
糖尿病の治療は、1に運動、2に食事、3に禁煙、最後に服薬と言います。つまり、食べたいだけ食べて、ゴロゴロしてたら、どんなにいい薬があっても糖尿病は治らないということです。その辺は、自分でどう制御もできない癌などの病気と違って、自己責任の病気と言えるかもしれません。
上でも述べましたように、糖尿病の原因としてインスリン抵抗性というものが大きく関与していることから、食事制限、減量というものが治療の第1歩になるでしょう。
運動というのも、インスリン抵抗性を改善するのに大きく役立ちます。食事制限をしてもなかなか体重が減らないのはみなさんも経験されるところだと思います。しかし、軽度の運動(30分程度の散歩など)をするだけで、脂肪を燃焼することができ、減量に大きく役立ちます。これが、インスリン抵抗性を改善するのに非常に役立ちます。
急に血糖コントロールが良くなってきて、どうがんばっておられるんですか?と聞いたときに一番多い答えが、運動を始めたんですというものです。間食を止めましたというのも良くある答えです。つまり正常の人より多くインスリンが出ている段階では、運動を始めて、間食を止めるということだけで、インスリンが効きやすくなり、みるみる血糖が下がっていくというのを是非みなさんも経験していただければと思います。境界型糖尿病の患者さんも同様の原因なので、こういったことをしていけば、糖尿病への進行を阻止することができます。
残念ながらさらに進行して、インスリン分泌が低下してしまった場合には、薬物治療が必要となります。
以上、本稿では糖尿病の疫学、検査、治療について述べさせて頂きました。(次項では、糖尿病の合併症について述べさせて頂きます。)自分がどういった糖尿病の段階であるのか是非検査を受けて頂き、その病態にあった治療を受けていただければと思います。
しかし、そうは言っても1に運動、2に食事、3に禁煙、最後に服薬であり、糖尿病治療の主役は患者さん自身であり、当院では医師、看護師、栄養士がチーム医療で患者さんのやる気のもとを引き出せるようにしていきたいと考えています。当院は「完全予約制」とさせていただくことになりましたので、初診の患者様は、お電話でのご予約をお願いします。